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大村市|なぜ痛みを詳しく聞かないのか?整体からみた慢性痛への向き合い方

  • 執筆者の写真: 勝仁 林
    勝仁 林
  • 2月5日
  • 読了時間: 5分

更新日:2 日前

目次

痛みを詳しく聞かない整体という選択

整体やリハビリというと、「どこが、いつから、どれくらい痛いのか」を詳しく聞くイメージを持たれる方が多いかもしれません。

もちろん、痛みの経過や背景を把握することは大切です。しかし当院では、人によっては、あえて痛みについて深く聞かないことがあります。

それは決して、「話を聞かない」「軽視している」という意味ではありません。むしろ、その方の回復過程において負担が少ないと判断した結果の対応です。


国際的に定義されている「痛み」とは

痛みの考え方は、近年大きく変化しています。その基準となっているのが、**国際疼痛学会(IASP)**が示した痛みの定義です。

痛みとは、実際または潜在的な組織損傷に関連する、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的体験である

この定義で重要なのは、痛みは単なる身体の感覚ではなく、「体験」であるとされている点です。

近年の研究でも、痛みの感じ方には神経や筋肉といった身体要因だけでなく、不安・恐怖・過去の経験・注意の向け方などが影響することが示されています(Raja et al., 2020)。

近年、痛みの研究は世界的にも大きなトピックスとなっており、従来とは異なる新しい考え方が次々と示されています。


痛みに「意識を向け続ける」ことで起こること

整体の現場では、次のような方に出会うことがあります。

  • 痛みの強さを常に数値で確認してしまう

  • 少しの違和感も「悪化したのでは」と強く不安になる

  • 痛みの話をするほど表情が緊張していく

こうした方はとても真面目で、体への意識が高い一方、注意が痛みに集中しすぎてしまう傾向がみられることがあります。

脳は、繰り返し注意を向けた情報を「重要な危険信号」として学習します。痛みについて何度も振り返り、評価し続ける状態が続くと、実際の組織状態とは別に、痛みが強く知覚されやすくなることが報告されています(Wiech, 2016)。


あえて痛みを聞かない、という臨床エピソード

ある方は、施術のたびに「今日は昨日より0.5くらいマシです」「さっき立った時にズキッとしました」と、とても丁寧に痛みを伝えてくれていました。

その姿勢自体は大切ですが、次第に動きが小さくなり、「痛みが出ないように」という意識が強くなっていきました。

そこで私は、次のようにお伝えしました。

「今日は、痛みの話は一旦おいておきましょう。代わりに、動きやすさや呼吸のしやすさを一緒にしましょう」

すると数回後、「そういえば、前より自然に立てています」と、体の変化を言葉にされるようになりました。

これは、痛みではなく“できる動き”に注意が向いた結果と考えられます。Moseleyらも、痛みへの理解や注意の向け方を変えることで、身体反応や行動が変化する可能性を示しています(Moseley & Butler, 2015)。


これは「逃げ」ではなく、治療的配慮の一つ

痛みを詳しく聞かないことは、痛みから目を背けることではありません。

・痛みに強く執着している・不安や緊張が強い・「治さなければ」という思考が負担になっている

こうした場合には、痛み以外の安全な感覚に意識を向け直すことが、結果的に身体の反応を和らげる場合があります。

これは、脳や神経の仕組みに基づいた、一つの妥当な対応と考えられています。

また、このようなケースでは、自分自身への声かけ(セルフトーク)が大切になることがあります。

たとえば、

「今の動きは大丈夫そう」「少し動けている」「悪化している証拠はない」

といった、安全性を確認するような言葉を自分に向けることで、過度な警戒や緊張が和らぐ場合があります。

近年の研究では、痛みに対する考え方や注意の向け方を変えることで、痛みの感じ方や行動が変化する可能性が示されています。特に、痛みを「危険なもの」と解釈しすぎないことや、「対処できる」という感覚を持つことが、身体活動の維持や回復過程に関与することが報告されています。

そのため当院では、施術だけでなく、痛みに対する捉え方や、安心につながる声かけの仕方についてもお伝えする場合があります。

(※セルフトークの具体例や方法については、別の記事で詳しくご紹介する予定です)


痛みを「中心」にしない整体という考え方

当院では、痛みの有無だけでなく、

・体の使いやすさ・日常動作の負担感・安心して動けているか

といった視点を大切にしています。

また、施術によって身体の状態を整えるだけでなく、痛みに対する捉え方や、日常生活での体の使い方について理解することも大切です。

「どのように動くと楽か」「どのくらいの範囲なら安心して動けるか」といった点を一緒に確認しながら、生活の中で痛みが気になりにくい状態を目指します。

痛みは、回復の過程で結果として変化していくものである場合も少なくありません。

痛みだけに意識を向けるのではなく、「できている動き」「楽に感じる瞬間」に目を向けることで、少しずつ体の使いやすさが広がっていくことがあります。


まとめ

  • 痛みは主観的な体験であり、脳や感情が関与する

  • 痛みに意識が向きすぎると、身体反応に影響する場合がある

  • 人によっては、あえて痛みを詳しく扱わない方が適切なことがある

  • これは無視ではなく、回復を支えるための配慮である

整体は、痛みだけを見る場所ではありません。その人が安心して身体を使える状態を取り戻すためのサポートです。


引用文献(簡単な解説付き)

Raja SN, et al. (2020)

The revised International Association for the Study of Pain definition of pain.

Pain, 161(9), 1976–1982.

▶ 痛みを「感覚+情動を含む体験」と再定義し、現在の痛み理解の基盤となっている文献。

Moseley GL, Butler DS. (2015)

Fifteen years of explaining pain.

Journal of Pain, 16(9), 807–813.

▶ 痛みへの理解や注意の向け方が、行動や身体反応に影響することを示した総説。

Wiech K. (2016)

Deconstructing the sensation of pain.

Science, 354(6312), 584–587.

▶ 不安や認知など、脳内プロセスが痛み知覚に与える影響を解説した基礎研究。

 
 
 

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